微雅
第一章〜死舞〜
第六話


+五月十五日+
「姿勢を正して下さい。
 これより十月十五日の朝儀をはじめます。礼。
 抄基 啓魄様お願いします」
「今日は予定通り死舞をとりおこなう。監督は二十一歳長だ。
 最後まで諦めずに戦ってもらいたい。
 たとえ自分が殺されても恨むなよ? ……以上だ」
「通常通り、監督の方が来られて合図をされると同時に死舞開始とします。
 姿勢を正して下さい。以上で朝儀を終わります。礼。解散」
 死舞終了の時には歳の人数が一人減る。
 心央に集まった者達の表情も自然とひきしまる。
 十分ほどたって今回十二歳死舞の監督をする二十一歳長がやってきた。
 とても落ち着いている綺麗なお姉さんという感じだ。
 彼女はすぐに辺りを見渡し死舞を開始してくださいと言った。
 とうとう十六回目の危険な戦いがはじまった。
 恋はすぐに人ごみを抜け出した。
 が、さすがに怪我が回復していないせいもあり多少動きが遅くなっていた。
 まわりを見ると皆そえぞれに戦っている。
 表情に温かみは感じられない。
「……?」
 だが何かがいつもと違う。
「殺気……がない?」
 たしかに皆ただならぬ雰囲気で戦っているが、ただ一つ殺気がかけている。
「……おかしい。いつもなら仲の良い人相手でもあるのに……?」
「……気づいた?」
 突然後ろから声がした。
「……周伯」
「みんな今日こそ恋が微雅からいなくなると思ってるんだよ。
 ほら、戦いながらこっちを意識してる。
 ……はじめに聞いとくけど、本当に下人になる気はないんだね?」
「ないよ」
「じゃ、私はあなたに死んで欲しくは無いからとりあえず気絶してもらおっか」
「・・・」
 恋は死舞になるといつも余計なことを全く話さない。
 そうすることで自分の中に湧き上がる危機感を外にもらさないようにし、結果的に自分の意識を集中させることにつなげている。
「じゃ、いくよ? 下人になりたくなったらいつでもどうぞ!」
 周伯がすばやく攻撃してきた。
 恋はかろうじて刀を抜き受け止めた。
「さすがに死舞ともなると動きが速いね。……でも」
 周伯は刀に力を強く加えた。
 もともとの腕力の少ない恋はすぐに押しまけてしまった。
「さて、最終かくに〜ん」
「……」
「これでわかったでしょ? 怪我する前に下人になっといたほうがいいよ。
 どっちにしてもなるんだからね?」
「……」
「そっか。じゃ、仕方ない。殺しはしないから……動かないでね」
 周伯は勢いよく刀をふりおろした。
 決まった。
 誰もがそう思った瞬間……。