微雅
第一章〜死舞(シブ)〜
第三話
コンコン
突然戸を叩く音がした。
「連絡を受けてやって参りました。圭 樟静(です」
(樟静! ……えっと……どうやって合図しよう)
各個人部屋のつくりは特別になっていて、外からの音は中に聞こえるが、中からの音は外にもれないようになっている。
恋は近くにあった紙に中に入るようにかいて、戸と壁の隙間に向かって投げた。
(お願い、通って! ……よし)
紙はまっすぐ隙間を通っていった。
すぐに戸が開かれる。
樟静は静かに部屋に入って戸を閉めた。
そして振り向きながら言った。
「抄基様から先ほど聞きました。恋さん大怪我をされたと……恋さん!?」
「あはは……やられちゃった」
「笑い事じゃないです! まさかこれほどとは。
さぁ傷口を見せてください。服を脱いだほうがいいですかね」
樟静はてきぱきと、持ってきた道具で手当てを始めた。
圭 樟静。
二年前下人になった十二歳の女の子。
五歳の時事故で兄を亡くした。
下人になったのは死舞の時。
力は当時歳の中でも危ない状況とはいえなかったが、突然自分から下人になった。
「……周伯が私を下人にしたいみたいでね」
「次の死舞で……ということですね。下人になる気はないんでしょう?」
「ん。絶対! あっでも別に下人を下に見てるとかじゃないからね!」
「わかっていますよ。恋さんがお優しいということは。
はい! あとはしっかり休んでくださいね」
「えー?」
「とりあえず、今日は部屋にいてください!」
「うー。……それよりさ、樟静ここくるの早かったよね、仕事は?」
「してましたよ。恋さんがお呼びだと伝えられて、その時していた仕事が終わってから行こうかと思いましたが、その後すぐ抄基様が来られて、恋さんが大怪我をされたときいて……」
「それで急いできてくれたんだ……ありがと」
「いいえ、また何かあったら言ってくださいね」
「うん! ……さてと、そろそろ外出よっか」
「部屋にいてくださいと言ってますでしょ」
「だってずっと部屋にいたら気がめいっちゃうんだもん」
「まぁ、恋さんにおとなしくしていろという方が無理な話ですよね。
わかりました。でも無理だけはしないで下さいね」
「わかった。樟静も私は大丈夫だから仕事戻りなよ」
「いいのですか?」
「途中だったんでしょ? 大丈夫だから」
「それでは戻らせてもらいますね」
「うん、がんばってね」
スー タン(戸)
樟静は立ち上がるとまた静かに部屋から出て行った。
(樟静、怪我の手当て上手くなってたなぁ。
まだちょっと痛いけど、外のほうが気が楽だし……よし)
恋は壁に手をついて立ち上がった。
(やっぱり手当てすると、しない時より全然動きやすい)
腕を曲げて、立ってしゃがんでと少し体を動かして怪我の具合を確かめる。
スー タン(戸)
外に出るとまだ戦を続けている者、鍛えている者、
休んでいる者、それぞれの時を過ごしていた。
「やっぱりここのほうが休めそう」
「恋!」
とつぜん後ろから声をかけられ振り向くと災支と白水がいた。
「大怪我したって聞いたけど、大丈夫?」
「心配する必要ないみたいだぞ。見た目やばいのに普通に動いてやがる」
「やっぱり怪我するの慣れてるんだねー」
「慣れてな……いともいえないかな」
「だろうな。そういえば、朝儀に来なかった奴……慶印(っていったか、たしか。
厳重注意されたらしいぞ」
「そうそ、しばらく自由に行動できないらしいよ」
「へぇー大変だね」
「……って信じちゃったの恋」
「え?」
「厳重注意は本当だけど、そこまでの処分は普通ねぇだろ」
「じゃ、なんでうそつくの……」
「っていうか、恋外でて大丈夫なの? 死舞近づくとよく狙われるんでしょ?」
「たしかに、出歩かないほうがいいかも。
でも、一人でいなければ多分大丈夫だから今はいいかな」
「俺たちが恋を狙わないとも限らないのにか?」
「そうだよ、恋今怪我してるし、絶好の機会」
「……それもあった。でもそんなことしないよね?」
「さぁどうだろ」
「……わかった。とりあえず見た目大丈夫になるくらいまでは外出ないよ」
「それが一番安全だな」
「まぁ夜のことはその時考えよ。じゃ、部屋に戻るね」
「うん、気をつけてね」
昼は出歩く者が多くいるので、部屋にいればとりあえず襲われる心配はない。
だが夜は外に人がほとんどいないため、誰がどの部屋に入ったかなどが判明されにくい。
おまけに部屋内の音が外にもれないため仕掛けるには好都合。
恋は外に少し未練を残しつつ部屋に戻った。
「やることないし。……勉強しよ」
恋はこの後また二時ごろまで勉強していた。
そしてそれから寝た後、少し外に気配を感じたものの、何事もなく朝を迎えられた。