微雅
第一章〜死舞〜
第二話
「周伯、全員そろっているか?」
「そうですね……一人いないようですが」
「そうか。まぁ後で行ってみるか。始めてくれ」
「はい。姿勢を正して下さい。礼。これより五月十一日の朝儀(を始めます。
抄基 啓魄(様、お願いします」
「上からの連絡は特にないが、今週の五日目は死舞(を行うので、
今日の戦(は特にけがしないように気をつけてくれ。
あと、いつもいっているが、必ず一人以上と戦うこと。
相手がいない場合は俺に言ってもらえれば探してやる。
あと、次の死舞の予想が発表された。
心央……ここの連絡板にはっておくから自由に見てくれ。以上だ」
「体調の悪い方はこの後私の所へきてください。姿勢を正して下さい。
これで朝儀を終わります。礼。解散」
集まっていた者達が一斉に散らばった。
同時に恋は人の間を抜けて走り出す。
(冗談じゃない。本当に今日けがしたらやばいんだから。
うまく周伯をまければいいんだけど……)
「やっほー恋(ちゃん、逃げちゃだめって言ったでしょー?」
「うそ、もう追いついて……」
「どこまでいくのー?しょうがないなー」
周伯は短剣を取り出し、恋の方へ投げた。
そして、見事命中。
恋はようやく立ち止まって振り向いた。
「……周伯乱暴はだめだよ。普通に痛いでしょ」
「そ? これくらい慣れてると思ったんだけど」
「なわけないじゃん……」
「じゃ、戦始めよっか」
「ホントにするの?」
「もちろん」
「でも、周伯だったらもっと強い人とした方が……」
「あっそういえば」
(シカト?)
「死舞の順位見てきたんだけど、恋また最下位だったよー。きっとまた狙われるね」
「そですか」
「……けがするわけにはいかないんだよね?」
周伯は刀を抜いた。
恋は一歩あとずさるがすぐ後ろには壁が控えていた。
「……」
「ね、なんで私が恋ちゃんと戦したいか分かる?」
「さぁ、ね。なんだか派手に怪我させてくれそうだけど」
恋も刀を抜いて向き直った。
「そろそろ狙われ続けるのに疲れたんじゃないかと思って」
「……下人(になる気はないよ」
「まぁそう言わずに。今日のところは少し怪我してもらうだけだから」
「……」
「じゃ、いっきまーす」
周伯は恋の方に走って素早く刀を振った。
十二歳といってもさすがは歳第二位。
身のこなしは本物となっている。
恋は刀をギリギリでかわし走り出す。
(戦は死舞と違って制限時間がある。その時まで逃げきれば)
「だからー逃げちゃだめだって」
すぐ後ろに周伯がせまっていた。
そして軽く、だが速く刀を振る。
恋はとっさにかわそうとしたが、腕を深く切りつけられてしまった。
「……」
「声、出さないんだね。でも慣れてはいても痛いでしょ? もうちょっと、我慢してね」
(慣れてないんだけど。でもこの傷、結構深い。制限時間までもまだあるし)
「それではもう一発」
(げっ腕上がんない)
周伯は素早く恋のすぐ側まできた。
もちろん刀を構えつつ。
恋はよけようとしてバランスをくずし転倒。
「……っ」
(やっぱりやばい。これ以上怪我するわけには)
周伯が恋の方へと近づく。
「ごっめんね!」
周伯は恋の足を深く切りつけた。
あたりに鮮血が飛び散る。
「……っ」
「痛い……よね?別に今日は下人になってもらうつもりはなかったんだけど。
ね、諦めて下人にならない? じゃないとその怪我じゃすぐ殺られちゃうよ?」
「……私は……下人にはならない」
「そっか。じゃ仕方ない、もう一発しとくか」
「……!」
右足に深い傷を負った恋に、また周伯が刀を振り下ろそうとした。
「おい!」
廊下のほうから声がした。
「……? その声は、抄基?」
周伯が振り向くとそこには抄基が歩いて来ていた。
「周伯、そのへんでやめてやれ」
(啓魄……)
「まぁ抄基が言うんなら」
「あと周伯、朝儀に来なかった奴探しといてくれないか?」
「あれ? 部屋にいなかったの?」
「いや、まだ行ってないが」
「わかった。とりあえず厳重注意ってことで」
「ああ」
「それじゃ、……恋ちゃんまたね」
「……」
周伯はすぐに廊下へあがり、見えなくなった。
「……啓魄あの、ありがと」
「派手にやられたな。大丈夫か?」
「あはは……ちょっときついかも」
「ったく。……周伯は今度の死舞でお前を下人にするつもりらしいな。自身の手で」
「それはそれは、副長自ら……か」
「下人申請やっぱりしないか?
それにもし死舞で意識を失ったりしたら、恋の意思に関わりなく目覚めたときには下人にさせられてるってこともあるし」
「それが問題なんだよねー。ていうかさ、周伯って朝儀と普段変わりすぎじゃない?」
「一応仕事の時はきちんとするんだろ。それより怪我の手当てしねぇと。誰か下人呼ぶか?」
「あっ樟静(部屋に呼んでくれない?」
「圭 樟静(か。それはいいが、部屋まで行けるのか?」
「うーん。頑張るしかないみたい」
「……無理したら本当に死ぬぞ?」
抄基はそう言って恋をなんとか立たせ、恋の前に背を向けてしゃがんだ。
「乗れ。部屋までおぶってやるから。」
「いいよ、そんなの。」
ゴーン
戦終了の鐘。
この後もお互いに続けたいと思えば続けられるが、片方が断れば強制は出来ない。
「じゃあ圭を呼んでやらねぇぞ?」
「……お願いします。」
恋は抄基の背に乗った。
抄基はすぐに立ち上がって、普通に歩くときと同じ速さで恋の部屋まで向かう。
そして、廊下ですれ違った下人に樟静を十二歳朱臣(の部屋まで来るように伝えさせ、まっすぐに部屋に着いた。
スー(戸)
抄基は無言で恋を下ろした。
「……ありがと」
「圭が来るまでおとなしくしとけよ。…・・じゃあ」
抄基が部屋を出るのを確認して、恋は一息ついた。
「……っ」
髪留めの紐で傷口を巻いてはあるが、応急処置にもなっていない。
(何とか怪我治さないと・・・。死舞まで今日入れて・・・四日)