微雅
第一章〜死舞〜
第一話
朱臣 恋
好きなこと 遊び
嫌いなこと 人を傷つけること
よく言われる言葉 万年最下位・まだ死なないの?等
ゴーンゴーンゴーン
「うーもう朝?」
午前六時、微雅(全土に鐘が響き渡る。
三つの鐘の音、起きろという合図。
この合図を聞いて微雅のほとんどの者が目を覚ます。
昨晩二時まで起きていた恋も例外ではない。
恋はまだ眠り気味の頭をたたき起こし日付を確認する。
微雅の一年は三百日(十五ヶ月で、一ヶ月二十日)。
五日周期で行動が定められているため日付の確認は欠かせない。
ゴーン(六時十分)
「……っと朝食の時間か」
二回目の鐘。
この鐘がなるまでに朝食が各部屋に運ばれる。
運ぶのは下人(と呼ばれる正式名称阻人(。
微雅の戦闘社会から抜けた、雑用等をする者達。
恋は昨晩した知火((自分の好きな分野)の勉強の復習をしつつ食事をはじめた。
そして食べ終わると、着替えをしつつまた復習。
「この前の試験また落としたからなー、何とか一つはとっとかないと」
身支度を終えて、本格的に勉強を始める。
ゴーン(六時三十分)
三回目の鐘が鳴り終わると、だんだん外がにぎやかになってくる。
今から三十分後に表で朝儀(があるため、朝の準備を終えた者達が集まっているのだ。
さぁそろそろ出ようかと恋が道具の片付けを始めると、外から呼びかける声がした。
「恋ーまだー?」
「ちゃんと生きてるかー?」
朝からうるさいなぁと思いつつ恋は急いで片付けを終わらせ、戸を開けた。
朝儀などほとんどのことは同じ歳の者で行い、だいたいどの年齢も四百名ほどいる。
普通は姓で呼び合うが、恋は十二歳の中で一番弱いとされていて、
下に見られているというのが名で呼ばれる最大の理由だ。
外には既に二百ほどの人が朝儀までの時を過ごしていた。
「もう、かってに殺さないでよね」
声をかけてきた二人は笑いながらこちらを見ている。
どちらも十二歳内での強さは中ほどで、男の子が災支 圭(、女の子は白水 散仕(。
暇なときに雑談するくらいの仲だ。
恋は出てすぐの柱に寄りかかった。
二人が側によってくる。
「恋、また眠そうだね」
「どうせ深夜まで勉強してたんだろ。試験一つもとれてないの恋だけだし」
「う……まぁそんなとこかなー」
恋達が話をしていると、少し離れていたところで話をしていたグループの一人が近づいてきた。
「やっほー、恋ちゃん元気ー?」
周伯 航里(。
彼女はこの歳で二番目に強いとされている。
「ねぇ、恋ちゃん今日の戦(
(五日に一度行われる同じ歳の一人と戦うこと)私としない?」
「えっ?」
「一回したかったんだよねーそれとも先約ある?」
「そっそうそう白水とするんだよ、ね、白水」
「そうだった?」
「うん!」
白水は少し悩むと周伯をちらりと見た。
「……周伯としてきたら?」
「え……」
「はい決まり〜。じゃ、朝儀終わってからねー。逃げちゃだめだよー恋ちゃん」
戦の相手が決まったところで、周伯は元のところに戻っていった。
「……白水ー私を殺す気?」
「大怪我しないようにがんばってねー」
「そんなー。災支も黙ってないで助けてくれてもいいじゃん」
「あー。まーがんばれ」
(しょうがないか、結局二人も周伯と争いたくないんだもんね)
その後しばらく二人の励まし(仮)を恋が聞いていると、突然あたりのざわめきが大きくなった。
十二歳の長抄基 啓魄(が来たのだ。
時は六時五十分、朝儀の始まる十分前。
もうほとんどの者が集まっていた。
抄基はまっすぐ前を向いて廊下を歩いていたが、恋のところで立ち止まった。
白水と災支は恋から離れて、他の者同様朝儀を行う心央と呼ばれる庭に並びに行った。
抄基は水の中で一番強く、頭もいい。
将来かなり有望とされていて、歳の下の者には様付けで呼ぶ者もいるほどである。
そのため、ずっと歳(と呼ばれる各歳のグループの長をしており、恋が万年最下位と呼ばれるのに対し永年最上位と呼ばれていた。
「恋、きいたぞ。今日の戦周伯とするんだってな。」
「どうだっていいでしょ!それより啓魄、今日は早いんだね」
「そうか?他の奴はもう集まってるみたいだが」
「それはそうだけど、啓魄はいつもみんなが整列して朝儀開始の鐘がなってからくるでしょ」
抄基も恋を名で呼ぶが、まだ上下関係が無かったころからなので差別的意味は含んでいないらしい。
恋もそのころから抄基を名で呼んでいる。
「そんなことより大丈夫か? 今日入れるとあと四日で死舞(だ。
今けがでもしたら大変だろ?」
死舞というのは、百日に一回、五月・十月・十五月のそれぞれ十五日に行われる。
歳の者の中で一人死者、または下人がでるまで続けられる戦いである。
普段仲の良い者達もこのときは自分が微雅に残るために戦う。
殺されそうになったときは、自ら下人になるといえば命は救われ戦いが終わる。
また、生き残ると予想される順位が毎回発表され、抄基は毎回最上位、恋は毎回最下位となっていた。
普通最下位やそれに近い者が死ぬか下人になるが、恋は当初から最下位でありながらいまだに微雅に残っている。
そのため、恋がいつまで微雅にいられるかと賭けをする者もいるという。
そして下の方のものを中心に狙うという決まりがある。
元々力の強い者を絞り込むためのものだからだ。
「だから、嫌だって言ってるでしょ」
「今度こそ誰かに殺られるんじゃねぇのか?なのに下人申請しねぇんだもんな」
下人申請というのは、あらかじめ死舞で重体になったときに下人になることを宣言し、そうなったときに命を見逃してもらい、下人になるというものだ。
「たしかに・・・・・・私毎回死舞で殺られそうになってるけど、下人になるつもりはないよ」
「下人になるよりは死んだほうがましとかか?」
「別に下人を軽蔑してるわけじゃない!ただ私が嫌なだけ」
ゴーン
朝儀開始の鐘が鳴る。
「やっば、啓魄と話してたんだから大目に見てよね」
恋は急いで中央に並びに行った。
抄基は黙って辺りを見回し、整列している者達の前へ立った。