番外短編三




 はぁ〜。
 とある個人部屋で一つのため息。
 ため息の主は一枚の通知書を手に丁寧に畳まれた布団の上に座り込んだ。
――戦闘知識検定試験結果通知 十二歳 朱臣 恋殿
 恋は不合格の通知の書いてある側を内側に織り込んで紙飛行機を作った。
 腕を伸ばしながら静かに手を離すと、目線の少し上を下降しながら真っ直ぐ飛んでいく。
 そして正面の戸にとんと当たってヒラヒラと落ちていった。
 恋は其れを静かに見つめるとクスリと笑った。


 と、突然戸が開いた。
 丁度戸の方角に日が傾いていたので恋はまぶしさに目を細める。
 聞きなれた声が上から降ってきた。
「……この前の検定の結果通知だろ。いいのか? こんな風に扱って」
 笑みを含んだ言葉が癪に障る。
「どうせ歳長さんに試験通れない人の気持ちなんて分かりませんよー」
 試験結果を既に知っているはずの抄基の言葉に、恋は不機嫌そうに目線を落とした。
 抄基は静かに戸を閉めて紙飛行機を拾い、恋の方へ飛ばした。
 恋はうつむいた頭に当たった其れに一層不機嫌になりながら顔を上げた。
「何か用なの?」
「もう笑わないんだな」
「何それ、意味わかんない」
「俺が此処に入ってくる前笑ってただろ」
「あのねぇ……あれはまぶしかったからで」
「いや、笑ってた」
「……」
「何で不合格なのに笑ってたんだ?」
「だから笑ってないって」
「そりゃ認めるわけ無いよな。
不合格なのに笑っていたということを認めると、合格する気が無かったというのを認めることになるからな」
「なっ……合格したいに決まってるでしょ!」
「こんな簡単な試験落としたんだ。そうとう満足してるだろ。
これでなかなか恋が頭いいと思う奴は現れない」
「……笑ってない」
「あくまでそう言うんなら別に問い詰める気はないけどな」
 意外とあっさり引いた抄基だったが、まるで勝ったとでもいうような満足げな顔をしている。
 それに気づいた恋は諦めたようにため息をついた。




おまけ


 一向に帰る気配のない抄基に気づかれないように、恋は部屋の奥の棚を見た。
 そこには十二歳としてではなく恋が個人で受けた審査の合格通知があった。
 そして恋はこっそり思う。
(私が笑ったのだとすると、それが不合格からか合格からかあなたに分かる?)