処刑か期待か

「鈴火……このままだとまじれ殺られるぜ、どうする」
 全方位をふさがれ、血だらけの身体。
 体力もそう残ってはいないこの状況。
 焔李は笑いを含みながら直ぐ横に居る鈴火に視線を送った。
「んーと……焔李、どーせこのままじゃ殺されるんだし折角だから楽しも」
 引きつった笑み。
 向かい合った二人の顔は諦めの色を少なからず含んでいる。
「楽しむだと?」
「ほら、悲観的にいるより随分と楽そうじゃない? それにちょっとでも余裕もってたらいざって時逃げ切れるかも」
 焔李が笑う。
 ひどく楽しそうに。
「ああ、確かにそう”かも”な」
 二人を包む空気が少し明るい物に変わった。
 鈴火はぐっと両手を上に押し上げ伸びをした。
「あーあ……私達処分されるってことかな、刑執に」
「まぁ、指令を受けた時点でかなり無理があったのは事実だろうな」
「生きて帰ったら驚くかな」
「俺らが死んだら刑執にふさわしくない者を殺す手間が省けたことに他ならない。もし生きて帰れば……短期間での成長に称賛でもしてくれるんだろうか」
「あはは、出発時点での私達の能力では生還できない事くらいお見通し、か」
 さすが刑執と冥、と鈴火が懐かしそうにその名を口にする。
「さて、そうだな……どうあがいたって殺られるんだ。楽しむか」
「そだね、こんな体験も刑執の特権。たのしんでやりましょう!」
 曇りの無い笑み。
 もう笑うことしか出来ない。
 準備は整った。
 いつ死んでもおかしくない。
 いつ死んでも悔いは無い、とはいえない。
 ならばせめて、自分はそこで大いに楽しんだと言い訳させてはもらえないだろうか。
 それで少しでも悔いが軽くなるのなら。

 自分に言い聞かせる。
 やれることはやった。
 自分は大いに楽しんだ。
 この命を。

 二人の異変に気づき。
 震え上がった者は少なくない。

 それは二人が刑執に入って間もないころの大仕事。