変わりなく
「……焔李のこと?」
刑執中央、禁時二時間前。
まだ禁時までまだ時間があるせいか、早めにきた恋と当直の鈴火の二人の姿しかない。
鈴火は途中で投げ出していた書類をわざとらしく手に取りながら恋をちらりと見た。
「そう! 焔李ってどんな人なの?」
率直に質問する恋は、好奇心旺盛な子供のように身を乗り出して声を荒げた。
しかし、まだ十二歳とはいえ恋が年齢にそぐわぬ知能を持っていることを普段の行動から理解している鈴火は疑惑の目を恋に向ける。
「なんでそんなこと突然聞くのー?」
聞き返された事に驚いたのか、恋は一瞬きょとんとした。
「えっ……だって普通気になるでしょ。官位の最高位の方々の監視役っていうすごい地位にいるのに普段から威張った風でもないし、刑執執行長なのに自ら現場に行っちゃうし」
当然の疑問だというように説明する恋の言葉に鈴火も納得した。
焔李はその地位に関わらず気取ったところがなく、また普通指揮のため司令官が現場に行くことはないにもかかわらず寧ろ危険事には自分から走っていっている。
「ん〜……確かに」
鈴火が肯定の言葉を発すると、恋は静かに続けた。
「それに、刑執のこと知りたいしね」
「んーそれは当然思うことだねー」
鈴火は最初に感じた疑惑をもはや全て消し去って続けた。
「そういうことなら私に任せてねー私結構刑執にいるの長いから」
「ありがと、鈴火」
「っていっても私もあまりしらないけどね」
「子供の時利緒さんが歳長で焔李が副長だったことは?」
「……知ってる」
鈴火が知っている限りの焔李と利緒の関係。
利緒と焔李が歳では飛びぬけて成績がよかった事、それでも焔李は利緒に最後まで勝てなかった事など、少々大げさな説明ではあったが間違った事はいっていないようで恋は真剣に聞いていた。
そして、恋は刑執での焔李がたまに少し投げやりなひねくれたような態度をとる理由が分かったような気がした。
鈴火が知っているということは、おそらく刑執の皆が知っていると考えたからだ。
「で、小さい時焔李はその二人のせいか結構素直な負けず嫌いでー、その性格がそのままの状態で今に至ったっていうわけです」
「へぇー」
ガタン
鈴火がまだ何か言おうとしていたが、扉のほうを見ると訝しげにこちらを見る焔李の姿。
「……あー恋またなにか聞きたい事あったら聞いてね」
「……うん」
焔李の登場で二人はそそくさと仕事に戻った。
恋は仕事に手をつけながら思う。
(表面上変わりないってことは、内面がすごく強いって事)
変わらずいられるのは日々変わっているから。
恋は焔李と目が合うとまたいつものようにわざとらしく目を逸らした。