刑執の緊張
「利緒、この資料に目を通しておいてくれないか」
「分かりました」
焔李と利緒さん。
私から見て、いいえ皆思ってるかもしれないけれど、二人の関係がすごく気になる。
刑執で普通利緒さんはさん付けで呼ばれている、呼び捨てをするのは焔李だけ。
焔李が執行長で利緒さんが副執行長だからとか、そういうことなら焔李もみんなからさん付けされるはず。
まぁ刑執では呼び捨てが普通みたいだから結局利緒さんが特別なだけなのは分かってるけど。
焔李と利緒さんが同い年だってことも知ってる。
でも幼い頃から親しかった、というわけでもないみたい。
結局、私は二人が呼び捨てしあう理由、ときどき走る二人の間の緊張を気にする理由を探してるだけなのかもしれない。
「利緒、この資料に目を通しておいてくれないか」
また、あなたは私に指示を出す時直接的な命令形を使おうとしない。
緊迫した状況においても頼むや任せるという言葉を使う。
「分かりました」
にこりと笑って応対すれば、居心地の悪そうな顔をする。
幼い頃から変わらないその態度。
今はあの頃より見違えるほど強くなって経験もつんで執行長という位置にいるというのに、まだ私の下にいるつもりですか?
あの頃は私が長であなたが副。
悔しそうに睨みつけてくる顔を今でも思い出します、だからあなたは強くなった。
私の予想以上で嬉しいですよ。
でも、まだあなたが私の下にいるつもりなら、そう思っていても構いません。
だから、もっと強くなって私を楽しませてください。
「利緒、この資料に目を通しておいてくれないか」
刑執は執行長の独断で動いているわけではない。
独断で動かす事も出来るがより公正な判断をするために他の物の意見も聞くことをしたほうが良い、と前執行長から教えられていた。
だから俺はいつも人の意見を聞こうとしているが、この場合より優先して聞くべきなのは副執行長である利緒なのは確かな事だ。
だからこうして利緒の知識を度々借りる。
「分かりました」
いつもの笑顔と丁寧な言葉で返され、また自分の小ささを実感してしまう。
幼い頃から、俺は利緒に勝ったことがない。
いつも自分の上にいる利緒。
戦闘の強さも知識の量も周りからの信頼も勝ったと思ったことは一度も無い。
だから幼い頃、ずっと利緒に勝つことだけを考えて修練していた。
現在、俺は最高官位で執行長も務める。
利緒は下人で刑執では副執行長。
勝った……とは思わなかった。
なぜなら刑執での信頼も、官位の間での評判も利緒はいつも上にいた。
利緒の考えていることは今も昔も分からない。
だが今はそんなこと関係ない。
お前がなにか企んでいるんだったらすぐに見抜いて返り討ちにするだけだ。
執行長として、利緒をずっと見てきた者として負けてやるつもりはない。
今日も刑執では執行長と副執行長のひそかな抗争が繰り広げられる。