当たり前

「ばか」
「一応恋よりは頭いいつもりだぜ」
「当たり前でしょ執行長」
 真昼にも関わらず中央には二人の影。

 いつものように朝儀から部屋に戻る途中、焔李に呼び出された。
 部屋に戻っても勉強しかする予定のなかったそのまますぐに着替えて刑執へと急いだ。
 そして、中央に着くと目の前にはあきれたような顔の焔李。
 どういうことだ、という台詞とともに差し出されたのは一枚の紙。
 昨日受けたばかりの試験の結果がそこにはあった。
 九割の正解率を記したそれは、数日後には合格の通知書が届くはず。
 それを見て苦笑しながら答える。
「何、調べたの? 監視ばっかりで疲れないですか執行長」
「ここは全問正解しておくところだろ」
「……無理言わないでよ。今までから考えればかなりいいでしょ?」
 今までの試験結果は良くて正解率六割。
 そこを考えると咎めるような結果ではないことは言うまでもない。
 しかし焔李は恋のその台詞を聞いて口の端を上げた。
「ああ、今までとは考えられない結果だな」
「だったら」
「じゃあなんで今までこれをしなかった」
「なんでって……焔李が試験落とすなっていったでしょ、だから頑張ったのに」
「恋が今まで本気でしてなかったことがまる分かりだな」
「何でそうなるの」
 微妙にかみ合わない会話。
 ため息をついてしゃがみこんだ。
 焔李はもう一方の手に持っていた資料を恋の上に落とした。
「それを見てみろ。試験の前後にある資格検定を恋が受けていた事がちゃんと書いてあるだろ」
「……だから、なに」
「恋はその検定の勉強をする。周りから見れば試験の勉強をしているように見える。それも懸命にしているように」
 下から焔李を見えげる。
「その証拠にその回の試験結果は全て悪く、その前後に受けた資格検定は全て合格。試験の結果と恋の勉強の姿だけを見た奴には恋の能力が低いと思う。恋の狙いどうりってわけだ」
 どう見たってばればれだろ。
 拗ねたように焔李をにらみつけると楽しそうな笑顔が返ってくる。
「分かってるんだったらわざわざ言わないで」
「そうやって負けたーって顔する恋を見るのも楽しいぜ」
 意地悪そうに笑ってそう言う。
「ばか」
「一応恋よりは頭良いつもりだぜ」
 そんなの
「当たり前でしょ執行長」

 意図を読まれたことを、自分のことを分かってもらえたと喜ぶ自分が、また悔しかった。