樟静と抄基
私が恋と関わるようになってまだ二年ほど。
それまでの私は下人や恋を下に見ていました。
だから歳長である抄基が何故このような者を気にかけているのか
理解出来なかったのです。
そして二年前、偶然にも抄基と話しをする機会がありました。
「歳長抄基、資料をお持ちしました」
「ああ」
「……」
「圭 樟静。何か用か?」
「・・・はい。一つお聞きしたいことが」
「何だ?」
「・・・歳長ともあろうお方が何故あのような者を気にかけるのです?」
「あのような者……朱臣 恋の事だな」
「はい。」
「そうだな……。
下人が必ずしも弱いわけではなく
官位が必ずしも微雅より強いわけではない
また、歳の長が必ずしも歳一強いとは限らない
圭のように力を出し惜しみしている奴が他にもいるかもしれない」
「何がいいたいのです?」
「俺は・・・それにかけているんだ。あるいは恋がそうではないかと」
「……」
「……とりあえずそういうことにしとくか。これが一番歳長らしい。」
「そういうことにって……」
「この答えじゃ不満か?
それじゃあなんとなくだ。
だいたい、何年も前から一緒にいるんだ。
気にかけない方がおかしいだろ。」
「……そうですね」
私は少し物足りなさを感じながらも歳長の部屋を後にしました。
そのときは、彼の答えに全く納得できませんでした。
しかし、今なら分かります。
抄基はとりあえずとは言っていたけれど
最初に言ったことがきっと彼にとって意識する上では一番の理由。
そして、本当の一番の理由はきっと私と同じ、普段意識していないような感覚的なもの。
立場も目的も違うけれど、それぞれを認め合って刺激しあってそれぞれの分野で伸びていく。
何かに成功したと言えば称賛し
相手に非があれば遠慮なく指摘する。
そのなかで生まれる安心感。
それがとてつもなく心地よい。
今私は恋の部屋に向かっています。
この時間だと抄基もいるでしょう。
さて、今日は何を話しましょうか。
昔のことを少し思い出していらついてきたので
抄基に喧嘩でも売ってみましょうか。
皮肉を交えた褒め言葉、あなたはどんな反応をするでしょうね。
きっと冷静に答えて、視線を合わせないまま、お返しに丁寧な言葉をくださるのでしょう。
恋の部屋の戸を叩く。
すると笑顔の恋がすぐに出てきて中へと促す。
案の定抄基がそこにはいて、静かに本を読んでいる。
私は恋の隣に座り、先ほど選んだばかりの言葉を静かに口にする。