いじめと傍観


 なかなか開かれない戸に向かって呼びかける。
「恋、まだー?」
 別に特に仲が良い訳ではないし
 いじめられてなどかわいそうだと同情している訳でもない。
 ただ少し気になる存在。
 不思議な存在。

 あまりに暇だったので暇つぶしに恋の所へ行った。
 今日は歳長:抄基は集会でいないので今恋は一人のはずだ。
 たまに上の歳の人といることもあるがそれはごくまれ。
 恋を見るのは暇つぶしには丁度いい。
 いつも傷が絶えず、死舞ではいつも殺されそうになっている恋は死舞や戦以外でもいじめの対象になる。
 恋をいじめるのは歳の中でも力が下のほうの者。
 いつ自分が殺されるかという不安に恋をそれの発散に使っているのだろう。
 もちろん私はそんなことはしない。
 今の自分の力に不安はないから。
 だから私はいつも傍観者。
 恋が目の前で大怪我を負わされそうになった時にはそのまま見ているかもしくは・・・
 
「白水って優しいんだね」
「……なんのこと?」
「この前助けてくれたでしょ。本当に嬉しかった。それにほんっとに助かった。戦の前日だったし。」
 どうやら先日、集団にいじめられていたのを助けた時のことをいっているようだ。
 あの時恋は既に傷だらけで、身体を動かすのも辛いほどだったろう。
 でも私はそれを見つけてもしばらく眺めていた。
 別に助ける理由はない。
 けれど、恋があまりに深手を負っていたので助ける事にした。
 でなければ、翌日の戦での楽しみがなくなるから。
 だから白水にとって恋に感謝されるのはおかしなことだった。
 「どういたしまして」
 だからいつもと同じように少しそっけなく応える。
「本当にありがとね」
 再度礼を言う恋に、少し目線を向けた。
 白水ははっとする。
 恋の目が少し寂しそうに見えたから。
 でも次の瞬間にはまたいつもの明るすぎるほどの笑顔。 (
もしかして気づいてた……?)
 明るく話す恋を無表情のまま見つめる。
(気づいてるのにどうしてそんなこと言うの?)
 恋はそんな白水に構うことなく明るく振舞う。

 そして私は、さっきの恋の一瞬の表情を軽く流すことにしました。
 今の恋の笑顔が嘘でも本当でも、それは恋が今を頑張っているという証だから。
 だから私は傍観者。
 恋が諦めるまで、その恋の姿を見て楽しませてもらいます。
 ねぇいいでしょ、恋。
 あなたがあのとき気づいていたなら。
 気づいていながらあえて咎めなかったのなら。